過去から未来へ繋げるために(『罪の声』ネタバレ感想)

前回ネタバレなしで、紹介したのですが、ネタバレありで感想などを書きたくなったので書きます。

ネタバレは本のおもしろさを半減させますので、まだ未読の方は下の紹介記事を読んでみてください。

あたかもドキュメンタリーのようなリアルさ(『罪の声』) | ほんぽっぷ

それではネタバレありで感想を書いていきます。引用はすべて『罪の声』からです。」

さて本作は、昭和の大事件、「グリコ森永事件」を題材にした物語です。(作品の中では「ギンガ萬堂事件」となっている)

題材にしたと言っても、舞台は、昭和ではなく現代です。本書の発売時の元号は平成、今なら令和です。

つまり「過去」の事件と言ってもいいでしょう。

そして、『罪の声』というタイトルからは、「過去からの呼び声」といったフレーズのようなフレーズが連想されます。

実際に主役のひとり、曽田俊也は、父の遺品から事件に使われたテープ、しかも子供の頃の自分の声が使われたテープを発見します。

これはまさしく「過去からの呼び声」そのものと言えるでしょう。

そして本書は、この曽田俊也と、「過去」の事件である「ギン萬事件」を調べ直す新聞記者の阿久津の物語です。

この2人がギン萬事件について調べていくストーリーが、この話の焦点であり、おもしろさでもあります。

しかし、事件の調査の中で、もうひとつ焦点として見えてくることが、「この「過去」の事件を調べる意味はどこにあるのか?」ということです。

事件の犯人を見つけることはスクープになるでしょう。

しかし、もうすでに事件は時効を迎えており、さらに新聞などで報道すれば犯罪とは無関係に過ごしてきた容疑者の家族や親類への影響は避けられません。

ではどうすればいいのか?

阿久津は最終的に自分なりの答えを導き出します。

「イギリスで曽根達雄さんに会って 、犯人たちのしょうもなさを目の当たりにしました 。大事件やって意気込んで蓋を開けたら 、何も入ってなかった 。それまでの取材のことを思うと虚しかったんですが 、帰りの飛行機の中で気付いたんです 。未解決事件だからこそ 、今 、そして未来につながる記事が必要なんやと 」

では、この調査が少しでも「未来」に繋がるのか?

そして見つかった小さな希望が、事件の中で離れ離れになった容疑者の家族、千代子と聡一郎、母子の再会です。

ストーリーのラストで、この2人は再開を果たしますが、ここで母子の確認に使われるのが、犯罪に使われた娘の望の声が入ったテープです。

「過去」そのものだった犯罪のテープが、「未来」への足がかりへと転換します。

もちろん事件の大きさに比べたら些細なものかも知れません。おまけのようなものです。

でも、このおまけがきっと次に繋がります。だからこそ母子の再会はこの言葉で終わるのです。

「これ … … 、ギンガのキャラメルのおまけなんです 」

過去を乗り越え、未来へ繋げるための物語。